「君の顔では泣けない(君嶋彼方)」☆自分の、自分だけの人生

 

ミステリではない、と思う。

でも私にとっては、これもミステリだ。

とても、強い衝撃を、受けた。

 

入れ替わりの小説は、いくつか読んだと思う。

有名なとこでは映画「転校生」の原作おれがあいつであいつがおれで山中恒)』とか。最近では『君の名は(新海誠)』もそうでしたね。

でも、この小説は今まで見たこともない小説だった。

そんなことある訳ないと思いながらも、小説だからと思いながらも

想像せずにいられない。

自分だったらどうするか。

たかが小説なのに、想像するだけなのに。

心の深い深いところが、痛くて痛くてたまらなかった。ずっと。

 

男も、女も。

みんな一度は読んだ方がいいんじゃないか。

自分の性。自分の今までの人生。自分を取り巻く人々、家族、環境。

その全てに感謝することになるだろう。

自分が自分のままでいられること。この先も自分として生きていけること。

当たり前だろう。他人と入れ替わることなんて万に一つもない。

むしろ入れ替わってみたいと思う人もいるかもしれないね。

でも、この小説を読めば少しは変わるはず。

どんなに平凡でも、どんなにちっぽけでも、

自分が自分のまま生きられることの凄さというものについて。

長い人生の中で一回、この本を読んでみたらどうだろう。

読んで何も感じなくても構わない。

でもどこか1ミリくらいは引っかかるものがあるかもしれない。

それは、この先の人生のどこかで役に立つこともあるかもしれない。

自分というものをちょっとだけ愛しく、そして許せるかもしれない。

こんな壮絶な人生でないことに、ただ自分だけの人生であることに

安堵する時が来ると思う。

人生はただ一度。

そして自分だけのもの。

それは本当に空気みたいに当たり前過ぎて感謝することなんかない。

むしろ人と比べたり、足りないものばかり数えてはため息をついている。

本当は、ただ自分が自分のままで生きられるということ。

それは控えめに言っても奇跡だということを思い知らされる。

 

【STORY】

圧倒的リアリティで「入れ替わり」を描く小説野性時代新人賞受賞作!
高校1年の坂平陸は、プールに一緒に落ちたことがきっかけで同級生の水村まなみと体が入れ替わってしまう。いつか元に戻ると信じ、入れ替わったことは二人だけの秘密にすると決めた陸だったが、“坂平陸”としてそつなく生きるまなみとは異なり、うまく“水村まなみ”になりきれず戸惑ううちに時が流れていく。もう元には戻れないのだろうか。男として生きることを諦め、新たな人生を歩み出すべきか――。迷いを抱えながら、陸は高校卒業と上京、結婚、出産と、水村まなみとして人生の転機を経験していくことになる。